2011年10月1日〜15日
10月1日 ロビン 〔調教ゲーム〕

 CFの中庭は、各国の店がぐるりととりまいていて、世界の屋台メニューが食べられる。

 おれの最近の気に入りは中華。
 キースといっしょに(彼はエスニック大好き)、中華のおやつを食べる。
 小龍包とかニラ饅頭とか。酢じょうゆで食べると肉汁がじゅっと出てうまいんだ。

 それに、よく行くせいか、店のオヤジがいくつかおまけしてくれる。
 そんな話をしてたら、エリックが言った。

「ロビンは甘えるのがうまいんだよな。ベビーみたいにヒトを操る」

 なんですと? きみがそれを言うかね?


10月2日  ロビン 〔調教ゲーム〕

「おれはどっちかというと不器用なほうだ」

 エリックの言葉におれは異議を申し立てた。

「むしろ、キミのほうがお色気でひとをあやつる魔性のワン公ではないかね」

 エリックの眉がぴくっと動いた。

「そうは思わんが」

「プールでよく、取り巻きにタオルをもってこさせたり、飲み物を持ってこさせ、女王のようにふんぞりかえっているじゃないか」

「あれは、ロニーとの競争があったから、応援してくれてたんだ」

 えー、とからかうと、彼はムキになった。

「どっちがタラシか、皆に聞こうじゃないか」


10月3日 ロビン 〔調教ゲーム〕

「ロビンかな」

 ミハイルいわく。

「少なくとも、ぼくはエリックにはほだされない」

「エリック一票」

 とフィル。

「タラシというか、気の弱いやつを集めて、親分になりたがる」

 キースは難しいなあ、と唸ったが、

「ロビンかな? ――中華マン買う時、やっぱりニコニコしててかわいいからな」

「おれは小龍包が好きなんだよ! 愛想笑いじゃないんだ」

 証言が出たぞ、とエリックが笑う。
 アルはというと

「いちばんのタラシはわたしだ」

 無効票だった。おれたちはおさまらず、家令に電話をかけた。


10月4日 ロビン 〔調教ゲーム〕


『どっちが甘え上手か?』

 家令の声は無愛想だった。どうも仮眠時間だったらしい。

 おれたちはスピーカーをオンにして、答えを待った。彼はしばらく沈黙した。寝落ちか? と思った矢先

『甘ったれといったら、エリックがダントツ一位。風邪ひいた時、ご主人様の手を放さなかったと聞いてる』

 おれたちはどっと笑った。エリックがあわて、

「いや、甘ったれじゃなくて、タラシというか」

『だれがニラ饅頭を一番もらえるかって話しなら、三位ロビン、二位アル、一位はフィルだ。おやすみ』


10月5日 ロビン 〔調教ゲーム〕

 家令評を聞いて、みんな笑ったが、おれはひそかに反省もした。

 やっぱりランクインしているということは、多少なりとも媚び笑いでおまけさせる調子のいいイメージがあるのかもしれない。

 今日も小龍包を買いにいったが、おれは品のいい表情にしようと気をつけた。しかし、オヤジのやつが、

「ロビン。今日は新作があるんだよ。豚肉、エビ、もち米と帆立と松の実のはいったちまきシュウマイだ。味見用におまけしておくな」

 おれは満面の笑顔になっていた。
 ダメだ。やっぱ、幸せすぎるわ。


10月6日 エリック 〔調教ゲーム〕

 先日の評価が気に入らなかったので、おれはひそかにもうひとつ家令にランキングを頼んだ。

「誰が一番タフかランキング」

 後日、家令はメールで下記のようなものを送ってきた。

『タフにもさまざまな種類があると思う。そこで、もし、無人島で置き去りにされたら誰が一番長く生き残るか、という命題で考えたい。

6位フィル、
5位ロビン、
4位ミハイル、
3位エリック、
2位アルフォンソ、
1位キース。理由は……』


10月7日 エリック 〔調教ゲーム〕

『6位フィル、体力的にすぐ潰れる。

5位ロビン、サバイバル能力がなさそう。

4位ミハイル、精神面で脆弱なところがあるため、長くなるとおかしくなる。

3位エリック、ミハイルと同じ。サバイバル訓練は受けているので、彼より少し長持ちする。

2位アル、楽器でも作って島生活を楽しみそうだが、アホな冒険をして死にかねない。

1位キース、基礎体力もあるし、ストレスにも強く、アホな冒険をせず、何年でも助けを待てそうだから』

 おれはしばらく考え、メールをそっとゴミ箱にうつした。

 
10月8日  イアン 〔アクトーレス失墜〕

 アキラとルイスは休暇をとっています。ふたりは日本に行ったようです。

 ふたりいっぺんに休暇をとることについて、アキラは迷っていましたが、ルイスのほうがわたしに頼み込んできました。

 これは聞くしかないでしょう。ルイスがわがままを言うことはめったにありませんから。

 一週間でいいから、というのを15日まるまる使わせてやることにしました。新人も育ってるし、仔犬も少ないのでなんとかなります。

 それに、アキラに貸しを作っておけば、われわれも休みやすいですからね。(笑)


10月9日 セイレーン 〔わんごはん〕

 秋なので、CFの中庭でも焼き栗が買えます。

 でも、焼き栗より甘栗のほうが好きです。甘くてほこほこして、コーヒーに合う! 
 たくさん買って、うちに持って帰ります。ご主人様とテレビを見ながら食べるのです。

 友だちが中庭で栗を食べても、ぼくは食べません。

「喰えよ。うまいぜ」

「でも、剥いてくれる人いないから」

「なにそれ?!」

 家ではご主人様に剥いてもらっている、というと友だちはあきれます。
 みんなのとこは、ちがうのでしょうか。


10月10日 ヒロ 〔クリスマス・ブルー〕

「秋だからね」

 直人がきのこの炊き込みごはんのお弁当をくれた。シメジやマイタケが入って、すごくうまかった! 

 日本の秋の味覚がなつかしくなる。サンマのうまい時期だ。脂ののったサンマにカボスをしぼって、しょうゆかけて食べたい。
 直人は七輪で焼くという。うらやましい! 

 ためいきをついていると、マキシムはおれが和食を恋しがってるとおもったのだろう。
 その日の晩、そうめんを茹でてくれた。そうめん……。


10月11日 ラインハルト 〔ラインハルト〕

 ウォルフが風邪をひいて寝込んでいる。

 おれなど具合が悪くなると、お姫様のようにあれこれ世話してもらいたくなるものだが、あの男は無愛想になり、ひとを寄せつけなくなる。

 伝染るからと、おれを寝室から追い出し、ひとりで薬を飲んで、ひとりで黙って寝ている。

 なにも食べない。
 野生動物が洞穴に隠れて、ケガが癒えるのを待っているみたいだ。

 おれも今は、忙しいからあまりかまえない。
 休み時間がとれると、戻ってカモミールティーをいれてやる。
 それだけは、彼も飲む。


10月12日 直人 〔わんごはん〕

 ぼくは牡蠣が好きです。

 まるまるしたミルク色の身に、ただレモンをしぼって、つるんと食べるのが好きなんです。あの歯ざわりが至福! 

 以前は仕事で疲れた後、白ワインと牡蠣でぼんやりすごすのが、ぼくのヒーリングタイムでした。

 この季節にはご主人様のお風呂のお供にもつい、生牡蠣を出すことが多くなります。
 しかし、きまって彼はスケベな笑いを浮かべます。夜、回数が多くなります。

 ……牡蠣って精力剤でもあるんですよね。


10月13日 ミハイル 〔調教ゲーム〕

 ぼくの部屋には、大きなぬいぐるみがあります。

 以前、ロビンがクリスマスプレゼントにくれたものです。景観をそこねる場違いなやつですが、ぼくは気に入っています。

 そして、これは絶対内緒ですが、時々ビニールから取り出して、彼を抱きしめます。

 こうすると、なぜかちょっと安心するのです。さびしい気分が慰められるというか。ほんのかすかながら、胸のどこかがあったかくなるというか。

 小さい頃、持っていたベアを思い出すのかな。


10月14日 エリック 〔調教ゲーム〕

 この温暖なアフリカでも、朝晩は少し冷えるようになりました。

 そんな時にはミルクティーです。
 あっためたミルクをたっぷりいれた紅茶を心静かに飲む。すると、胃はほかほか、こころもほかほかしてくるのです。

 しかし、アレはいけませんな。レモン! だいなしです。

 ロビンやキースらアメリカ人に紅茶を淹れてやると、どこからか薄い輪切りがあらわれて紅茶を下品な味にしてしまいます。

 ビタミンCがとれるとか、そんなのどうでもいいのです。紅茶にはミルク! ミルクですぞ!


10月15日 ジル 〔不貞〕

サー・コンラッドが帰ってくるなり言った。

「ジル、腹減った。あれ焼いてくれ」

 あれとはクレープだ。たまにアンディに焼いてやっていたら、いつのまにか旦那まで喰うようになっていた。スポーツ番組の途中だったりするとわめきそうになる。

 面倒くせえ、と思いつつキッチンで作業していると、いつのまにかサー・コンラッドが後ろにいる。

「いいにおい」

 と背中から抱きしめてくる。長い腕に抱きしめられると動きにくい。

 だが、首筋と背中があたたかくて、つい文句をいうタイミングを逸す。


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